N11  この物語はフィクションで 学校名 個人名 団体名は全て架空のものです。
  スマホの方は ブラウザリーダー機能(簡易表示)が見やすいかもしれません。      
Excelの ページへ

 N10   N12

 ジャンプボール、美香が深く曲げたひざを伸ばして思いっきりジャンプ、ボールをはたいて前にいた中崎真由子に回した。すかさずドリブル レイアップシュート 相手のディフェンスが戻って来てぶつかった。シュートはバランスを崩していたので外してしまった。
 「ピー」
審判の笛がなった。

(よしフリースローだ。)
 真由子は2本とも決めた。開始5秒のことである。
その後も一進一退。相手チームに動揺が走っているのがわかった。前回、楽勝しているので油断していたのだ。1クォーター目が終わって6対4。リードしている。

 うちは1クォーター目にベストメンバーを出す。これはいつも変えない。
 2クォーター目、普段は メンバーを一部変える。しかしこの試合では総入れ替えした。メンバー構成的に弱くなる。それでも最初に2点入れて8対4。いい感じだ。
(いけるぞ。)
 ディフェンスは引いたゾーンディフェンスにした。背の高さを生かしてリバウンドをとる作戦だ。昨年の西日本大会で平均身長の高いチームにゾーンで引かれて負けてしまった教訓を生かした。今年のチームは身長が高い子が多くいる。
見事、それが的中して2クォーター終わって9対8。
リードしている。

(よし3、4クォータはベストだ。頑張れ!〉

しかし、さすが強豪校の一角。3クォーター終わった段階で12対13。
1点だがリードを許した。

 そして第4クォーター。石上コーチが試合中、私に何か言おうとされていたが冷静さを欠いていた私は「何ですか?」と聞く余裕がなかった。
 
終わってみれば14対16。接戦だが、負けてしまった。十分勝てる試合だった。
肝心なところでイージーショットつまり簡単なシュートのミス。キャッチミス。
やはり数か月前に大差で負けているプレッシャーからかミスが目立った。

 真由子は最後にボールを持っていて試合終了の合図を聞いてボールを床にたたきつけてしまった。明らかにマナー違反だがよっぽど悔しかったのだろう。終わった後の反省会で泣いている子が多くいた。
 谷村絵里が声も立てずに泣いていた。絵里は自分が、けがで出られなかった悔しさをにじませていたのだろう。剛もグッときたが
「泣いてる暇はないぞ。冬の大阪大会まで1か月しかない。」
自分に言い聞かせるように言った。
しかし、谷村絵里は冬の大会にも出られない。

 大阪大会。最後の公式戦の抽選結果を聞いて(勝利の女神にまだ見捨てられていないな)と思った。シード校といえども4回戦以降はシード校同士が当たる。5回戦まで勝たないと大阪ベスト4にはなれない。うちのブロックは有名な強豪チームはいなかった。千里中央小とは決勝戦まで当たらない。もちろん、そんなところまで勝てるなんて考えてもいなかった。実際、前の市民大会では1回戦で負けている。
 子どもたちの中には
「旭ヶ丘小学校とやって今度こそリベンジしたい。」
と言っていた子もいたが、剛は内心当たらなくてホッとしていた。勿論、対戦しても勝てるといっている子どもたちを信じないわけではないが『二度あることは三度ある。』という不安の方が先行した。

「勝っていけば4回戦でシード校の豊中の曽根中央小学校と当たる。ここも旭ヶ丘小学校と同じかそれより強いかもしれない。まず、そこを目標にしよう。」
子どもたちにはそう言った。

 しかし、自分の心の中ではベストフォーを目標にしていた。当時、冬の大会が終わると近畿や全国に行くチームの他は6年生にとって大きな公式試合はなく、3学期はチームを次の年度に切り替え6年生は後輩の指導にあたることが多かった。だが、緑北小学校には教えるべき後輩がいない。いや剛が転勤するのは確実なので入部を断ってきたのだ。
 それに、谷村絵里にもう一度、大きな大会でプレーさせたかった。
 
 希望の前に立ちはだかるのは、まず豊中の曽根中央小学校だ。
豊中のチームになかなか勝てない。その頃は豊中の上位に食い込むことが大阪でも上位に食い込むことになるぐらいだったのだ。
 そんな中、北千里丘小学校で12月23日「第一回北千里丘カップ」をやるので参加しないかという話が舞い込んできた。聞けば「あるスポンサーがカップを用意してくれたので千里地区の小学校を中心にちょっとした女子の大会を開催したい。」ということだった千里中央小には悪いが千里地区といっても千里中央小みたいな強豪が来ると結果が分かっていてつまらないということで『豊中の中堅どころ』に声をかけているという。
「旭ヶ丘や曽根中央は来るの?」
「いや、声をかけたけど府大会の試合前だし、止めとくって。うちを入れて7チーム集まったんであと1チームなんだ。どうする?」
 剛は、迷った。確かに府の大会の2日前だ。そんな直前に試合をして谷村絵里のほかに、これ以上けが人が出たらイヤだし本人もつらいだろう。しかしチームの雰囲気はよくなかった。ユニフォームを作るときはイケイケだったのにそれ以来 豊中のチームとの練習試合では負けが多くなって市民大会では1回戦で接戦だが負けてしまった。(やっぱり9月のブロック大会で勝てたのは「まぐれ」だったんだ。まあ一回でも優勝できたから良かったんじゃない。)みたいな諦めと変な満足感があった。

 しかし 大阪大会は、社会体育のチームとして実質、最後の大会だ。
悔いのないように準備したい。

そうだ『挑戦』だ。絵里だって普通の練習中のけがである。負けることやケガから逃げて出ないより北千里丘カップ大会に出て挑戦することに意味がある。

剛は「はい、出ます。」
と答えていた。

Copyright(C)2018 furutom