N07  この物語はフィクションで 学校名 個人名 団体名は全て架空のものです。
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 夏休みを迎え2回目の公式大会を目標に練習に励み練習試合もしていたが緑北小学校には勝利の女神は微笑まなかった。
 一緒に練習している千里中央小学校はゾーンプレスの練習もしたおかげかどうか分からないが益々強くなり最近では『負けなし』が続いていてその噂が他の地域にも広がり大阪の他からも遠征試合のお願いが来たりしていた。
「来週は愛知県の試合に泊りがけで行くことになったので緑北小には来ないから」
そう千里中央小の子から聞いた子どもたちは羨ましがった。友だちと「お泊り」できることは子どもにとって試合だけではない楽しみがある。
「いいなあ。強いチームはあっちこっちから呼んでもらえて。」
「君たちも強くなれば呼んでもらえるかもよ。」
「でも、先生、私たちまだ1回も勝ったことないんだよ。・・・」

 さすがにこの頃になると最初、練習をし始めるころには「近畿」や「西日本」と口走っていた子たちも強くなることの難しさ、試合に勝つことの難しさを肌で感じていたのでそんな話は一切しなくなったが、仲良くなった他校の友だちから遠征試合の話を聞くとただただ羨ましいという感情に飲み込まれそうになっていた。
次の週、暑い体育館で練習していた子どもたちは明らかに意欲に欠けていた。集まる人数も10人をきっていて5対5の練習もできなかったし来てない子のことを
「ねえ、あの子。昨日の夕方、見かけたよ。練習サボっているんじゃないの。」
と友だちのことを批判する子も出てきた。
 練習中 ボールが敵でも味方のものでもない、つまり「ルーズボール」を取りに行こうとしない。
「なんでボールを取りに行こうとしないんだ?」
剛は、中崎真由子に責めるように聞いた。
「だって、コートの外に出るって分かっているし・・・」
「そんなこと走って行ってみないと間に合うかどうかわかんないじゃないか?」
真由子は小声で
「無理よ。どうせ私、足遅いし。」
剛は、その声が聞こえていてムカッときたが聞こえないふりをした。

 数分後、また真由子がディフェンスをサボってつまりしっかり足で相手を追いかけないで手だけ出してボールを取ろうとしてファールをした。
「真由子!またサボった!夏のこの練習がどんだけ大事がわかっているんか!」
 さっきのこともあって思わず恫喝していた。一瞬、体育館がシーンとなった。平島美香が真由子をかばった。
「真由子はずっと練習に来ていて疲れているんです。」
「エッ何?疲れていたら、ディフェンス サボっていいんか?」
「ホンマにしんどかったら練習休んだらええやろ。練習来ててもそれやったら意味ないやろ!」

 今から考えると本当に練習自体をサボっていた子もいただろうに真面目にがんばっている真由子にはきついこと言ったかもしれない。しかしベストメンバーの5人にはとりわけきついことを要求した。なぜなら出たくても試合に出られない子が何人もいるんだからみんなのためにもがんばるのは当たり前だと思っていたからだ。

 美香はさらに言った
「サボって練習来てない子や家族旅行で来ない子もいる中、真由子は家族旅行をやめてもらって練習にきてるんです。」

 他の子どもたちから
「エー。そーなんだ。真由子かわいそー」
「だいたい、こんな暑いときに練習すること自体に意味なんかあるの?
 休みも大事だってことわかってないんじゃない?」

 ひそひそ話が聞こえた。その時、剛の気持ちの中の何かがプチンと切れた。

「わかった。今週は千里中央小も来ないし、練習休みにしよ!来てない子にも伝えとけ!」
「エッ。」

 子どもたちのざわつきにも気にせず
「何なら、夏休み中休みにしたっていいぞ!」
「はい、今日もここまで。」
大きな声でそう言った。
 今まで練習が伸びたり、急に体育館が使えるようになったので練習をすることはあっても練習を途中でやめたりできる予定の練習を中止したことなんてなかったので子どもたちは、戸惑ってじっとしていた。
「何してんねん。早く片付けて。・・・はよ片付け!」

 子どもたちを帰した後、剛は思った。
(ちょっとあせって練習やりすぎたかなあ。・・・
やっぱり無理かなあ。・・・
 いったい俺はどこまでを目標にしているんだ。・・
公式戦一勝。それだけでもいいんじゃないか。もしそれがだめでも親睦試合ではきっと一回ぐらい勝てるはずだ・・・それに別に勝つことを目標になんかしなくてもバスケットボールを楽しむだけでいいじゃないか・・嫌だ。そんなことなら最初からやらない方が良かった。子どもたちもそんなつもりで再開を希望したわけじゃない。でも・・・
 もう止めようかなあ。いや いきなり止めるのはやる気のある子に申し訳ない。そうだ練習量を減らそう。どんどん減らして子どものやる気がさらに無くなっていったり。やめる子が増えていったりしたら止めたらいい。そうだ!そこで止めよう。10人揃わないから止めるというのは最初から言ってあるし。)

 気持ちは 止めるという方に傾いていった。

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