N05  この物語はフィクションで 学校名 個人名 団体名は全て架空のものです。
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 合同練習の初日。最後の方で谷村絵里が言い出した。
「ねえ先生、試合しないの?」
「エッ。今、相手チームの子がどんだけうまいか見ていたでしょ。試合にならないよ。ぼろ負けするよ。」
「それでもいいから、やってみたい。」
平島美香も言った。真島先生が
「オッ、やる気のある子たちだね。じゃやってみるか?でも手加減はしないよ。」
「はい。」
1クォーター。5分だけということで5人選んで試合をすることとなった。
まあ、試合にはならないと思っていたが・・・
 最初のジャンプボールからうちのチームの子がボールを触れることができたのはゴールを決められてエンドラインの外からボールを入れる時だけだ。こちらが味方にパスしようとしたボールをサッと相手チームが取ってすばやくゴールを決める。その繰り返しだ。そう、パスさせないディフェンスではなくパスできそうだと見せかけておいてそのボールをとるフェイクディフェンスだ。さすがに何回もされたので、今度は遠くに投げようとするがそれもカットされる。終わってみれば 64対0。しかも 時計を止めないたったの5分間でそれだけ得点された。
このスコアーを今でもはっきりと覚えている。約10秒いや約9秒に一本ゴールされた計算だ。
 ここまで差がつくとは思ってもいなかった。さすがにガックリ来たが子どもたちは平気だ。
「すごいね。」
「私たちも練習してうまくなって試合で勝ってみたいね。」

 しかし、やはり予想通り やり始めたばかりのチームはどんな相手でも練習試合に勝つのはなかなかだ。
 守りつまりディフェンスの基礎からの指導に重点をおいて、それは少しずつわかってきて体の動きがディフェンスの動きに近づいてきた。千里中央小との合同練習の時も相手に与える得点は64点から50点40点と徐々に低くなってきた。(ちなみに5分間だが・・) しかし予想はしていたが、攻めつまりオフェンスがまるで駄目だ。バスケットボールは点取りゲームなのでいくらディフェンスがよくてもオフェンス、つまり最終的にはシュートがリングに入らなければ勝てはしない。こちらがボールに触れる機会も増えたが、得点は0点のままだ。

 昨年からのつながりで休みの日の練習試合に何度も声をかけていただいた。さすがに始めたばかりの4月は遠慮していたが、5月の連休から出かけることにした。千里中央小とは違う他のチームとやる初めての練習試合。やはり無得点のまま負けてしまった。
 子どもたちは、あっさり
「負けたけれど そんなに強い感じはしないね。」
「やっぱり 千里中央小は強いよ。」
無得点の反省もなく、他人事みたいに言っている。
剛は
「こんな試合でどうするんだ。練習試合もできなくなるぞ。」
と きつく注意した。
 
 次の日、5月の三連休最後のその日は一日中試合ができたので4試合あった。最初の3試合はこちらが無得点で負けた。前に注意しているので終わった後、反省して 『次は。こうして責めたらどうだろう?』と話し合う姿が見られた。そして・・
 最後の試合の相手は4,5年生が中心の「来年のチーム」だ。技術的には向こうの方は経験があるので断然うまいのだが身長的にはうちが有利だ。
 打ったシュートは ほとんど、はずすがそのリバウンドを身長差で取ることができ、ついにシュートが初めて決まった。
「やったー。ナイシュ(ナイス シュート)。」
まるで試合にでも勝ったような喜びようだった。実際に3クォーター目が終わって8対6と勝っていた。
「先生、初勝利かも・・・」
子どもたちは色めきだっていたが。・・
 結局、最終クォーターの第4クォーター目に逆転され結果10対12で負けてしまった。試合後の反省会で体育館を出たところの校舎の端で子どもたちは泣いていた。今までどんなに負けても涙一つ出さずに「あっけらかん」としていた子どもたちが泣いている。試合の後、いつものダメダシではなくその時は こう言った。
「惜しかった。でも、初めて試合で得点ができた!しかも2ケタ得点だよ。良かったよ。」

 慰めたつもりなのに余計に、泣かせてしまった。真由子が泣きながら言った。
「私、大事なところでこけちゃって・・そのせいでボールを相手にとられてそれで点も取られて負けちゃった。」
 中崎真由子は、真面目な練習と身長を生かした得点力で5月には10人の中はおろかベストメンバー5人の中に入っていた。
「別に、真由子のせいじゃないよ。私もフリースロー2本ともはずしたし。」
平島美香が真由子をかばった。

剛は、自分にも言い聞かせるように
「まだ5月だし、やり始めたばっかりだし、これからだよ。がんばろう。」
と子どもたちに声をかけた。

 その帰りの電車でたまたま居合わせた おばあさんに
「今日は『子どもの日』だよ。試合か何か知らないけど、子どもをあちこち連れまわしたりしないで自由にさせてあげられないのかね。」
と言われてしまった。剛は
「まぁ・・」と曖昧に返事をしながら
(このまま終わるわけにはいかないんですよ。)と心の中でつぶやいた。

 土日祝日の練習試合。いつまでも弱いままだと声がかからなくなってしまう。
つまり練習試合によんでもらえない、練習試合すらできなくなるのだ。
練習試合は同じチームで練習している以上にうまくなるチャンスである。
どうしても普段の練習ではお互い友だち同士なのでちょっとぶつかったぐらいで「ごめん、大丈夫?」とか言ってプレイを止めてしまう子もいる。しかし、知らない学校の子との試合では公式戦でなくてもやはり本気モードでぶつかり合うので、力がついてくるのである。やるからには本気でやりたい。

(子どもたちの「悔し涙」を「嬉し涙」に変えることができるだろうか?しかもたった1年で。)
不安を抱えつつそう思うのだった。

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